F. ブローデル『文明の文法 I』(みすず書房、1995年)
われわれはみんな誰しも、人生のごく短い時間の枠だけで考えてしまいがちであるし、また、世界の歴史を、やれ戦争だ、会戦だ、首脳会議だ、政治危機だ、革命の日々だ、革命だ、経済混乱だ、思想だ、知的流行だ、芸術的流行だ、というふうに、何でもすべて連続して次々と慌ただしく起こるテンポの速い映画のように見てしまいがちではあるのだが。
しかしながら、人々の生活には、こういう出来事ばかりを集めた映画には現われないような数多くのほかの現実が含まれているということもまた事実である。たとえば、人々が生きている空間、人々を閉じこめ、人々の存在を決定している社会的諸形式、意識してにせよ、無意識にせよ、人々が従っている倫理的諸規則、宗教的・哲学的信条、そしてそれぞれに固有の文明などがそうである。こうしたさまざまな現実はわれわれよりもはるかに長い生命をもっており、それがすっかり完全に変化するのを自分の生きているあいだに見とどけることなどとうていかなわぬことであろう。(p.24)
《plus a something》 F. ブローデル『地中海①』